感詰地獄

読んだ書籍、観た映画の感想や考察をつらつら書き連ねるブログです。

『RAW 少女のめざめ』の感想【ネタバレ注意】

以前、映画好きの友人と「食人映画観たいね~」ってちょっと盛り上がって、個人的に食人ってカテゴリは美学が伴ってないと嫌だなぁと思っていたのですが、思い切って観てしまいました。

「食人」って言葉から、どんな作品を思い浮かべますか?

分かりやすいところだと、『東京喰種』、『グリーン・インフェルノ』、一応『寄生獣』もその括りに入れていいかなと思います。最近じゃ鬼が人を食べたり、玄弥くんが鬼を食べたり、童磨殿がバリバリに女の子食べていたりしていたので、『鬼滅の刃』も食人にカテゴライズできるんじゃないかなと思います。要素は多分に含んでいますよね~。

『瓶詰地獄』は読者に委ねる内容ではありますが、ある意味「食人」かなぁなんて妄想したり。あの作品は答えがない故に我々の脳を破壊してしまうので、個々の見解に行き着けて、道徳の授業にピッタリだと思います。カップルで読み合って、感想と考察で殺し合って欲しいですね~。

 

『東京喰種』第1話の最後のセリフ、「もし仮に僕を主役にひとつ作品を書くとすれば…それはきっと…”悲劇”だ」。僕がRAWを観終えた時に浮かんできたシーンです。

そう、この作品の醍醐味は、もよおすような濃厚グロでもスプラッタでもなく、逃れられないトラジティです。

数多の「生理的に無理」要素がもう詰めに詰め込まれているので、ちょっと耐えていただいて……。脇にビニール袋を構えてでも、最後まで視聴する価値のある映画だと思います。

 

 

『RAW 少女のめざめ』

監督:Julia Ducournau

キャスト

ジュスティーヌ:Garance Marillier

アレックス:Ella Rumpf

アドリアン:Rabah Naït Oufella

 

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16歳のべジタリアン、ジュスティーヌは、両親と姉と同じ獣医科大学に入学する。初めて親元を離れて、見知らぬ新しい環境である大学の寮で暮らし、生活する不安に駆られる彼女。両親に車で寮まで送ってもらうが、寮にいるはずの姉アレックスに電話をかけるもつながらない。途方に暮れつつも、仕方なく一人で寮に向かいルームメイトと対面するが、女性との相部屋を希望したはずなのに、そこにいたのはアドリアンという男性。「俺はゲイだから」と言われてもなんの慰めにもならない。さらに追い討ちをかけるように、『フルメタル・ジャケット』も真っ青の上級生による新入生歓迎のハードコアな儀式としごきが突然始まり、地獄の日々が幕開け。ようやく姉と出会えて安堵するが、狂乱かつ過酷な日々が続く。

ある日、そんなしごきの一環として、全身に血を浴びせかけられ、さらにうさぎの生の腎臓を強制的に食べさせられたジュスティーヌは、体に異変を感じるようになる。身体中に発疹ができ、皮がむけ、体調はすこぶる悪い。悪夢にも悩まされるようになる。学業では優等生として本領を発揮するが、原因不明の精神的、肉体的なドラスティックな変化についていけない。ストレスもマックスで、最悪だ。学食で衝動的にハンバーグを万引きしようとしたジュスティーヌの姿を見たアドリアンは、彼女を連れて寮を抜け出し、バスで小旅行に出かけて夕食を共にする。アドリアンにすすめられて、そこで生まれて初めて自発的に肉を、ケバブを口にしたジュスティーヌは、肉の美味しさに衝撃を受け、がつがつとむしゃぶりつく。その後も夜中に無性に腹が減り生肉にかぶりつくなど、さらなる変化に戸惑うジュスティーヌは、次第に自分の内に秘めた恐ろしい本性と秘密に気づくことになる……。

 

出典:RAW〜少女のめざめ〜|2018年2月2日ロードショー

 

 

↓予告映像はこちら

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 予告映像がなかなかに生々しく気持ち悪さに針が振れていて、正直生々しい表現自体は得意じゃないので、視聴し切れるかはエンドロールまで不安なまま観続けてました。

フルメタル・ジャケット』、そういえばキューブリック作品なのに観てないんですよね。どれほどハードコアな内容かは存じませんが、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が実家な僕としては、近いうちに観ておきたいですね。 

 

フランス映画だからなのか、ちょっと前に視聴した『ゆれる人魚』の雰囲気に近い表現が多いです。国もお隣ですしね。何か似ているものはあるのかもしれません。

アバンギャルド、と言ったら少し異なるのかもしれませんが、フランスからイメージする色遣いや雰囲気ってこれかな?ってものがあります。勉強不足でお恥ずかしい。

 

 

 

ではでは、ここからはネタバレ要注意で。ガッツリ感想です。

 

 

 

 

 

ベジタリアン一家で生まれ育ち、冒頭で生肉入りマッシュポテトの嫌がらせを喰らっていた主人公のジュスティーヌなんですが、誤解を承知で言葉を選ぶならとにかくインキャ。16歳のティーンであれば、ファッションやちょっと背伸びしたことに手を出していてもおかしくない歳なんですが、飛び級入学なのもあってか、酒!セックス!ドラッグ!な大学生のパーティーのノリには全くついていけず、ルームメイトのアドリアンは見た目通りのオラオラタイプなので、さっそく相手を見つけてイチャついているしで、正直観ていて心が一番痛くなったのはこのシーンです……。

あの水鉄砲、絶対ジンが入ってるんだろうな~!マジ楽しそう!

オッパイとホットパンツが飛び交う、本編における最後の救いのシーンです。

 

その後も先輩たちからの新入生歓迎と称した洗礼がたくさん待ち受けていまして、ウサギの腎臓を生で食べさせる、大量の血液をぶっかけられるなど、本当に獣医学学ぶ奴らなのか???と生殺しなシゴキは見ていて痛々しくなるものばかりでしたねー(とはいえ、血液をぶっかけるシーンは後述の理由もあり、ペンキだと思っていました)。

そしてジュスティーヌはウサギの腎臓を食べたせいか、アレルギーを発症してしまいます。ベジタリアンなのも相まっての精神的苦痛との食い合わせで発疹出ちゃったのかな。結構あるみたいですよ。

僕も昔とびひであったりを経験したことがあるので、発疹を掻き毟るシーンは見ていてあまりにも辛かったですね……。音を立てて皮が剥け、肌が赤く腫れていくのは見ていて本当に辛いんですよ。ここ共感ポイント高くてゲロでした。

この後、保健室?で軟膏を塗りこんでもらうシーンでも、痛々しい処置のシーンが流れ、当大学における”慣習”の凄惨さを先生が語ってくれます。ここまでのシゴキの話って、そういや日本じゃあまり聞かないかも。アルハラにしろパワハラにしろ、オープンでパブリックな場所では淘汰されていくんでしょうね。

まぁ、この大学はガチの辺境にある全寮制なのでそんなことは起きないんですが……。

 

この保健室シーンで、ジュスティーヌは自身の異常に気付きます。ずっと空腹だと。このシーンのやり取りで、シェリルのあの曲が浮かんできちゃったので反省してほしい。ルームメイトのアドレアンと一緒にサービスエリアっぽいところまで外出して、ケバブをほおばっているシーンがあるのですが、アドレアンのゲイ特有の語彙力とトラックのおじさんがアドレアンを一生”おさそい”していたのもあって、ジュスティーヌがフツーに豚肉食べていることに全然気づきませんでした……。

僕の知ってる”おさそい”は、「握手の際に掌を親指でなでる」だったので、国際色豊かだなぁって思いました。オケでお世話になってるセンセが、若いころに海外の挨拶だと勘違いしてやりまくってたそうです。

明確な食人への興味はこのシーンです。冒頭で事故った車両の運転手が搬送される現場を横切る際に、まさに食い入るように見つめるジュスティーヌが描かれます。

 

ジュスティーヌの食欲はエスカレート。学食のハンバーグをポケットに入れて万引きしようとする(?)、夜な夜な冷蔵庫を漁るなど……。

アレックスが妹のイモっぷりを心配してか、ブラジリアンワックスで脇毛と陰毛を処理します。あれクソ痛いらしいですね。Iラインのブラジリアンとか想像するだけで縮み上がります。Vラインに塗ったワックスが剥がれず、やむなくハサミで切ろうとするアレックスに抵抗するジュスティーヌ。悲劇の引き金はここで引かれます。中指を切断し姉は失神。救急車を呼び、切断された指の処置をしようと氷を探すも見つからない。途方に暮れるジュスティーヌによぎったのは食欲でした。この食事シーン、はじめての一品にありつけた獣のように、それでいてどこか官能的にねっとり描かれているのが、監督の趣味良過ぎポイントですね。それを見たアレックスは何故か不敵な笑みを浮かべます。

ここの意味、というかアレックスの行動原理がクライマックスまでわからなかったんですよね……。この後も、交通事故を誘発して「狩り」を教えたり、のちのシーンで酔った勢いで霊安室の遺体で餌付けしようとしたり……。クールでサバサバした振る舞いをするのもあって、最後の最後まで謎のままでしたね。食人に目覚めた妹を理解しようとする行動なんだと思って観てましたもの。

 

まだまだ続くシゴキの日々。部屋に先輩たちが来訪し、全身に青のペンキをぶっかけて、黄色にまみれた男性を向かわせ、「色が緑になるまで戻ってくるな」と言い放ちます。ここ『アンチポルノ』要素。アレは1人でペンキまみれでしたけど。アレックス子もスージーZも最高なので観てください。

ここで衝動を抑えられなくなったジュスティーヌは、相手の唇を噛み千切ります。そうして気まずくなり(衝動を抑えられなくなった)、同室のアドリアンの元へ向かい、「抱いてくれ(意訳)」と告げます。個人的に、最悪のシーンでもありますね。友人を思い、献身的に交わろうとするアドリアンの心中は最悪でしょうし、友人もおそらくいないジュスティーヌに誰よりも寄り添った人物を冒涜する行為には違いありません。

執拗にアドレアンの首や腕に噛み付こうとするジュスティーヌ。その衝動を抑えるべく、自身の右腕から血が零れるほどに強く噛み付いて、友人を殺してなるものかと堪えます。性欲と食欲が勝るとも劣らない、カオスな状態が渦巻き今にも溢れようとしているんです。

ポスターにもなっている鼻血を垂らすシーン。アドリアンが上裸でフットサルをしているシーンを眺めるジュスティーヌなのですが、それほどまでに「興奮」しているわけです。獣に成り下がりつつある自分に気付きながらも、生存のための欲求に逆らえない。これほど苦しく、人から離れつつある心理を神童と謳われる彼女が抱いている。最悪(誉め言葉)。

 

 ここから、どんどんジュスティーヌにも変化が。あれほどパーティーや騒ぎにノれなかったのが、進んでイッキしたりさそうようになったり。なんだかんだで大学生活を謳歌しているのか、姉と立ちションしたりするんですよね。ここマジで意味わからなくて楽しそうで、この笑顔守りたかった。泥酔したジュスティーヌを連れ出したのはアレックス。霊安室で遺体を引っ張り出し、大勢のギャラリーの面前で、泥酔して飢えたオオカミのようになった妹の前に遺体の指を差し出して弄ぶ一部始終が、学内全体に広まってしまいます。

その姿を撮影し、本人を諭すアドレアンの言葉も耳には入らず、姉とのキャットファイトに。これはもうドッグファイトの領域に突入していましたが……。

 

 そして最後の最後の問題シーン。姉との喧噪の末に、ベッドで目覚めたジュスティーヌの横にいるのは安らかな寝顔のアドレアン。「コイツどれだけお人よしなんだよ最高か??」と思っていられたのもつかの間、ジュスティーヌの指先を這うのはヌルッとした感触。布団をめくると、太ももを食い漁られ失血死していたことがわかります。背中にはスキーストックによる刺し傷が。

間取り的にくぼんでいる冷蔵庫の方へと歩みを進めると、口を血まみれにした姉の姿が。ジュスティーヌに罪を被せようとしたのか、それとも食糧として与えようとしたのか、そこまでは明らかにはなりませんでしたね。どうだったかな。

収監される姉。そして3人で食事をする一家。冒頭からパッとせず煮え切りもしない父から告げられたのは、姉は気が強く自分への「めざめ」から獣医学を志したであろうこと、初めてのキスで母も同じく「そう」であったこと、体に刻まれた無数の傷跡でした。「解決法を見つけてほしい」。

そう、食人にめざめる遺伝的素質があったわけですね。”悲劇”としか言いようがありません。では母はどうやってベジタリアンとして自制できているのか?傷の状態からも、現在進行形で父は体を刻まれているのかもしれません。

成就し得ない願い、背負わされた十字架、あまりにも多くの責を負わされ、この後ジュスティーヌはどうやっていくのか、どうなっていくのか、続きは妄想するしかありませんが、16歳の少女が背負う宿命としてはあまりにも重く、無責任で罪深過ぎます。母はこの現実から目を背けているわけですし、姉は殺人という形で逃れ(られてませんが)、すべてを妹に投げ捨てていったのです。

一少女が抱え込む獣と宿命と責任、心中を察しようとするだけで押しつぶされる"悲劇"性を味わいたい方にはオススメです。俺と一緒に地獄に行こう! 

 

最悪に後味悪く、血の気が引く幕引きでした。是非ともご覧になってほしいです。

初めて感想をまとめたので、魅力的で目を惹かれた部分など、もっと書きたいこともありますが、今後も何かしら感想を書き連ねていくので、観てくださって気になる作品の1つとなって、視聴のきっかけとなったなら嬉しいです。

 

次は恋愛映画か救いのある映画を観ます。たぶん。

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